若い先生へ

第1章 新卒時代のこと
私が初めて教師になった時の話をします。(1961年、ベビーブームの子供たちが入学してきたころです。)初めての授業で中学3年生の教室に入った時あちらこちらに空席がありました。自己紹介をはじめて5分ほどたった時、5人くらいの男子がガタガタと、それこそ傍若無人に教室に入ってそれぞれの席に着きました。教室の後ろに立たせるのですが、平気な顔をしておしゃべりをはじめ、結局はげんこつで思い切りぶん殴って授業を終える…。そんな毎日が約1ヶ月くらい過ぎました。そして、中学1年生の担任したクラスの生徒とは、毎日のように廊下で取っ組み合いのけんかをして時には、顔を大きくはらしてしまった生徒の家に謝りに行ったり・・・・・。でも、校長先生は、「私が責任を持つから。」と、いつも私をかばってくれていました・・・・・。
 でもさすがに5月の半ばくらいになると、自分のエネルギーも使い果たしてしまったような感じがして本気で教師を辞めることばかり考えていました・・・・。
 そんな時、大学時代の親友に手紙を書いたら、すぐに飛んできてくれて言われた言葉で持ち直し、再び教師として頑張ることができました。そして、38年間教師を続けました…。(そのことについては、後で詳しく書いてみたいと思います。) 

どう考えたらいいのか
 ―自分のすべてをぶつけてみましょう。―
 未熟な23歳の大学を卒業したばかりの教師がそんなに簡単に生徒の心をつかめるはずがないということがわからなかった私がだめだったのですが、その時の生徒たちが今でも一番私と連絡を取り合っているのです・・・・。
 そして、私が70歳になったとき、60歳になった彼ら(新卒時代に担任した生徒)が60名近く集まり自分たちの還暦の祝いを兼ねて私の古希のお祝いをしてくれました。
 特にすぐカーっとなって手を出してしまったことなど新卒時代の私の取り組みは大半が間違っていたと思っていますが(2年目以降は、極力自分からは手を出さないように心がけてきたつもりです・・・・。)私が必死になって私自身をぶつけ続けていたことが卒業後45年たっても生徒たちの心に残っていてくれたと思います。
 私が教師になってずーっと心がけてきたことをいくつか書いてみたいと思います。
@生徒の前では、いつも全力で取り組んでいることを見せること。(自分の体調が悪い時は、正直に生徒に伝えていましたが)
 例えば、学活の時間にクラスの生徒にフォークダンスをやらせたとき、一人も手をつながず、一人も踊りださない中、私一人で踊り続けた時もありました。合唱コンクールなどの朝練習の時など、一人も参加しないのに1週間近く一人で教室で歌っていたこともありました。生徒に宿題を提出させたときは、たとえ徹夜しようとも、提出ノート全部に、細かく赤ペンを入れていました。授業では、自分のできる限りの声を張り上げて授業をやっていました。(大声を出せばそれでいいということではありませんが…)
でも、子供たちはしっかりと覚えていてくれました。その時の、空回りしながらも必死になっていた私の姿を…。そして、そこから少しずつ変わっていってくれました。
Aどんな時でも、誰の前でも、絶対に生徒の悪口を言わない。
 (「あの生徒はダメだ、あの生徒は性格が悪い…」なんて口に出すような先生がいたら、その人は担任をやる資格がないと思っています。)私は、同僚や先輩の前ではよく愚痴はこぼしました。でも、少なくとも自分のクラスの生徒は、どんなことをやったとしても、自分の子供と同じだとずっと思っています。わが子の悪口を他人に言うなんていう親はいないと思っていますから・・・・・。
B怒るときは本気で怒り、ほめるときは、こちらが照れくさくなるくらいにオーバーにほめる。 3/10
 いつもその生徒のことを真剣に考えていれば、その生徒が間違ったときは、本気に怒ることはできます。その生徒を何とかしてやろうという気持ちで、なかなか相手に気持ちが通じないようでも、真剣に怒ってあげましょう。怒ることは、割合誰でもできるのですが、ほめるということはとてもむずかしいです。何か、逆効果になってしまうようで、私もなかなか本気でほめることができなかったのですが、一生懸命ほめてあげたことで、その生徒が大きく変わったという経験を私は何度かしています・・・・。人間と人間の付き合いです、こちらの気持ちは必ず生徒に通じるものです。
 

授業が、なかなかうまくいかない。

 授業がうまくいかなかったことなんか、私は何回もありました・・・・。そのたびに、私は本屋に行き何冊も何冊も本を買って(教師向けのや、生徒向けの参考書など)それを一生懸命読み、板書事項を何回もノートに書いて・・・・。でもなかなかうまくいきませんでした。
@自分を信じて、絶対にあきらめない。
 自分に、完璧な授業なんて出来ないということはわかっています。でも、みんなを引き付ける授業をするためにまだ何かが出来るはずだと思い努力してきました。私は理科の教師でしたから、実験をできるだけやってみました。それも、教科書や指導書に書いてあるやり方だけではなく、何かほかに工夫はないかと必死で考え、いろいろな本を図書館などで探しまわりました。実験の前の日は、自分自身で繰り返し予備実験をして少しでも良いやり方を見つけようとしてきました。それは、退職する年まで続けてきましたが、それでもなかなか自分に満足するような生徒が沸き立つような実験を創り上げることはむずかしかったです・・・・・・・。
A他の先生の授業を見せてもらう。
 私が教育実習の学生を私のクラスで受け入れた時に最初に言っていたことは、「ほかの先生方の授業をできるだけたくさん見なさい!」ということでした。私も、その先生が認めてくれれば私の空いている時間は一緒に見せてもらいました…。まずは信頼できる先輩に、授業を見せてもらうように頼み込んでみましょう。緻密に授業プランを立てて、それに従って授業を進める先生や、アドリブとその時々の生徒の反応を大事にして授業を進める先生などさまざまな先生の様々なやり方から学び取ることがたくさんあります。また、保護者向けの、授業参観日は絶好の機会ですので、私は空き時間は全部見学させてもらいました。いわゆる研究授業はミスを極力なくすように準備をしすぎているようで私にはあまり参考になりませんでしたが、参加すれば何かしら得ることはあると思いますので、自分なりに受け止めて吸収していけばいいと思います。ほかの先生の授業を見させてもらいながら、自分に欠けているのが何なのかを真剣に考える謙虚さを持ちましょう。
 あわせて、研究授業を積極的に引き受けるなど、極力ほかの先生方に授業を見てもらうようにしましょう。怖がらずにどんどんほかの人の意見を聞くことです。間違っている意見や、明らかに批判するためだけの意見などは、自分の心の中であっさりと切り捨ててしまえばいいのですから・・・・。
B生徒にたずねましょう。
  私はいつも定期テストの答案の最後に、授業への感想や意見を書かせることにしています。また、給食の時間などは絶好の情報収集の時間です。私は職員室などで昼食を食べるよりも生徒の中で食べるのが好きです。必ずグループごとで給食を取らせ曜日ごとに各グループの生徒の中に入って給食を食べていました。そのとき、『先生のこんな授業が面白かった。』とか『あの実験はつまらなかった。』とか、率直な意見をたくさん聞けるのです。”生徒に学ぶ”という姿勢はとても大切なことです。


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